輻射冷暖房とは?導入のメリット・デメリットをご紹介
数多くある冷暖房装置の中からどれを選べばいいのか?後悔しない選択をするためには、基本的な冷暖房の仕組みを知っておく必要があります。この記事では「熱エネルギー移動の原理」について解説します。エアコン・床暖房・パネルヒーターなど身近な冷暖房装置を例に挙げ、それぞれの熱移動の形態やメリット・デメリットについても触れますので、冷暖房装置を選択する際のご参考となれば幸いです。
そもそも熱エネルギーには、温度の高いところから温度の低いところへ移動し、双方の温度差がなくなると移動を止める(熱平衡)という法則があります。また、熱エネルギーが何によって運ばれるかによって「対流」「伝導」「輻射」という3つの形態に分類しています。熱力学を詳しく解説するWEBサイトは多々ありますので、このページでは身近な空調設備を例に挙げ、それぞれが持つ機能や効果の違いを比較しながら解説します。後半では、熱エネルギーの法則の観点から輻射冷暖房のメリット・デメリットについても触れていきます。
「熱エネルギー」が移動する形態は3つ
対流(エアコンなど)
気体や液体の流れによって移動する熱エネルギーを「対流熱」と呼びます。暖かい空気は膨張するため軽く、冷たい空気は収縮するため重くなります。同じ空気でも、この密度による重さの違いにより上下に移動する働きがあります。住宅の例では、吹き抜けのあるリビングで暖房しているとき、窓際から床面に向かって冷たい空気が流れてくることがあります。コールドドラフトと呼ばれる現象です。窓から伝わった冷気で空気が冷やされ、重たい空気が下に降りてくるのです。このように水や空気などの流体が対流することで運ばれる熱エネルギーであるため対流熱と呼ばれています。
対流熱を利用した冷暖房装置の代表例がエアコンです。エアコンは室内機の内部に熱源を備えており、この熱源に室内から吸い込んだ空気を触れさせることで温風または冷風に変えて室内に送り返しています。人が室内に居る時に一番多く触れているモノが空気ですので、この空気を直接調温して循環させることで、急速かつ効果的に冷暖房できるというメリットがあります。
ただし、暖かい空気は軽く冷たい空気は重いため、上下方向に対流することで温度ムラが発生しやすくなること、また壁やドアなどの間仕切りがあると空気が移動しにくいため各部屋にエアコンを設置する必要があるといったデメリットもあります。さらには、運転中は常に風を送り続けるため、床のホコリを空気中に巻き上げる、肌が乾燥する、風きり音がするなどの課題があり、敏感な方にとってはストレスを感じる要因にもなっています。
伝導(床暖房・電気カーペットなど)
物体と物体が直接触れることで伝わる熱エネルギーを「伝導熱」と呼びます。例えばホットコーヒーに砂糖を入れて金属のスプーンで混ぜていると、次第にスプーンの先端からスプーン全体へと熱が伝わっていきます。これが日常的に起きている伝導熱の一例。なお、鉄は熱が伝わりやすく、空気は伝わりにくいなど、物質によっても熱の伝わりやすさ(熱伝導率)が異なります。
伝導熱を用いる暖房装置では、床暖房や電気カーペットなどが例に挙げられます。床がフローリングの場合、特に真冬は底冷えしやすい床面を直接温めることができるのが床暖房のメリットです。エアコンと併用することで、暖房時の温度ムラを解消できるという点で使い勝手が良く、1990年代以降で爆発的に普及してきました。床暖房にも温水式・電気式とありますが、温水式の場合は導入費用はやや高くなりますが、省エネで電気代が安いというメリットもあります。
ただし、人が居ても居なくても床全面を温める構造であること、床暖房だけでは室内全体が温まりにくく、快適な温度環境にするためにはエアコンも併用運転するケースが多いことから、かえって電気代がかかり省エネとは言えない場合もあります。また、フローリングなどの床材の下に熱源(温水配管・電熱線など)を通すという構造から、冷房運転は不可。もし床下に冷水を通した場合、見えない床の裏側で結露・カビが発生してしまうためです。暖房時に限定して使用するものですので、少々贅沢な暖房装置と言えるかもしれません。
輻射(パネルヒーター・電気ストーブなど)
物と物が直接触れていなくても、電磁波となって伝わる(移動する)熱エネルギーを「輻射熱」と呼びます。電磁波と聞くと電波塔や電子レンジなど危険なイメージを持たれるかもしれませんが、実は日光を浴びて感じる暖かさは太陽から発せられた電磁波(赤外線)によるもので、皆さんも日常的に触れているものです。身近な暖房装置の代表例は、パネルヒーターや電気ストーブです。パネルヒーターは欧米では広く普及していますが、日本では馴染みが薄いと思われますので、電気ストーブを例に解説いたします。電気ストーブは温めたい方向に向けることで、人や物に熱エネルギー(赤外線)を直接送ることできます。赤外線は物体や人体の内部まで浸透し、内側から効果的に温める働きがあります。
ただし、空気を温める働きが非常に弱いことが欠点です。床・壁・天井が温められてから次第に空気にも伝播していくので、室内全体の気温を温めて快適な環境を実現するまでに、より多くの時間がかかるというデメリットもあります。電気ストーブは足元など居所的に使用される場合が多く、冷温水式のパネルヒーターを建物全体の空調装置として採用する場合には複数台の設置が必要となります。
それぞれの空調設備を暖房運転時で比較
対流熱(エアコン)、伝導熱(床暖房)、輻射熱(輻射冷暖房)がそれぞれ室内の温度環境にどのような影響を与えるか、部屋の高さごとで温度を測定し比較したデータがあります。エアコンと床暖房は大きな温度差を発生させていることが一目瞭然。これが温度ムラと呼ばれる現象の正体です。一方、輻射冷暖房(温水パネルヒーター)は床面から天井までほぼ均一な温度を実現。温度ムラを抑制、室温を均等にする働きにより、もっとも自然で快適な温度環境を実現してくれるのが輻射冷暖房であると言えます。
ここまで「対流熱」「伝導熱」「輻射熱」を代表例を挙げて解説いたしましたが、自然界で常に起きている熱移動の中でもっとも多くの割合を占めているのが実はこの「輻射熱」なのです。割合では、伝導熱が5%、対流熱が20%、輻射熱は実に75%もの割合を占めていると言われています。言い換えれば、温度調節にもっとも効果的なのが輻射熱の原理を利用した輻射冷暖房装置と言えます。
輻射冷暖房とは?
輻射冷暖房は、輻射パネル内部に通した管に冷水・温水を通すことで、熱エネルギーを輻射熱に変換して室内全体を冷暖房する仕組みです。他の空調装置と異なる点として「風を使わずに空調できる」「床から天井まで室温を均等にできる」「高い省エネ性」などが挙げられます。近年、輻射冷暖房のこれらの特徴が急速に認知されており、省エネ性を重視する体育館のような大空間施設の他、一般の戸建住宅やマンションでも新築・リフォームを問わず導入される方が増えています。なぜ、輻射冷暖房が選ばれているのか、そのメリット・デメリットを解説いたします。
輻射冷暖房のメリット
無風・無音の快適環境を実現
輻射冷暖房はエアコンと違って風を一切使わずに空調します。そのためエアコンのデメリットとして挙げられる、対流熱による温度ムラ、風による冷えすぎや乾燥、不快な風きり音が発生しません。完全な無風・無音の快適な環境を実現することができるため、快適さを追求される方、音に敏感な方、寝室に設置する空調をお求めの方などから選ばれています。
室内の温度ムラを抑制できる
輻射パネルから室内全体に輻射熱が放射され、床・壁・天井の温度をほぼ均一に調温することができます。エアコンのように空気の対流をほとんど発生させることがなく、床暖房のように足元と空気との温度差も感じることもありません。室温が均一で温度ムラが発生しない環境とは、言い換えれば暑さも寒さも感じない、まるで春のような極めて自然で優しい体感となります。
高い省エネ性能
ヒートポンプを利用した冷温水タイプの輻射冷暖房は、電気ストーブや石油ストーブなどに比べてエネルギー効率が高く省エネです。エアコンもヒートポンプを使用しているため同様にエネルギー効率は優れています。しかし、空気を調温する対流式であるため、法令で義務付けられている24時間換気の影響を受けやすく、せっかく調温した空気を排気。これにより、一定の頻度で高出力での運転が必要となる場合があります。輻射冷暖房は赤外線の熱移動によって床・壁・天井などの物体を直接的に温め・冷やします。物体の内部に熱を蓄えるため24時間換気による影響を受けにくく、省エネ運転でも充分に温度を維持することができます。
輻射冷暖房のデメリット
部屋全体に温度が行き届くまで時間がかかる
輻射熱の性質として、床・壁・天井などの物体を温める・冷やす働きがある一方、空気を調温する働きが非常に弱いことが欠点です。時間が経過するにつれて床・壁・天井から空気まで温度は伝播しますが、スイッチオフの状態から立ち上げて室内全体が快適な温度に到達するまでに数時間かかる場合もあります。人が常に触れているのは室内の空気ですので、空気が調温されなければ快適な体感は得られません。素早く暖房したい・冷房したいという方にはエアコンの方が好まれるでしょう。そのため、輻射パネルメーカーの多くが、冷暖房が必須となる真夏・真冬には24時間運転とすることを推奨しています。
局所的な冷暖房が難しい
床面から天井まで室内の温度を均一にできるのが輻射冷暖房の強みですが、温度が均一であるが故、局所的な冷暖房には向いていません。例えば、ご家族で暑がりの方がいる場所を局所的に、またはお風呂上がりの方だけが一時的に冷房を強く感じたいという場合、扇風機のように局所的な冷房装置が必要となります。もちろん輻射パネルの近くにいれば暖かさ・冷たさをより感じやすくなります。しかし、例えばエアコンの風が心地よいという方がいるように、冷暖房に求めるものが人により異なるため決して万能とは言えません。
【ecowinHYBRID】は、エアコンと輻射冷暖房の良いとこどり
輻射冷暖房システム「ecowinHYBRID」とは、冷温水式の輻射冷暖房と高性能エアコンを組み合わせたハイブリッド型の冷暖房システム。従来のエアコンの冷媒ガス管に輻射パネルを接続することで、エアコンを運転するだけで輻射冷暖房を稼働させることができる優れものです。これにより、輻射パネルの強みである室内の床面から天井まで温度をほぼ均一にできるというメリットに加えて、エアコンを併用運転することで対流熱による即効性の高い冷暖房を可能にします。さらに、エアコンの風向・風量を調整することで局所的な冷暖房を可能にします。
エアコンの余熱を有効に再利用
「ecowinHYBRID」は、冷媒ガス管を通じてエアコンと直結することで、エアコンの室内機と室外機を循環する冷媒ガスの「余熱」を利用して稼働します。そのため、輻射パネル本体の動力はゼロ、電源を必要としません。エアコンの余熱を有効活用することで、エアコン単体で運転した場合と比較して、最大約34%もの消費電力削減を実現します(早稲田大学環境総合研究センター実証評価)。快適なだけでなく高い省エネ性を発揮します。
輻射熱の働きで床面から天井まで温度を均一に
「ecowinHYBRID」の輻射パネルは、エアコンの動力を輻射熱に変換して室内の床面から天井まで放射します。暖房運転時のサーモグラフィーをご覧いただければ、エアコン単独運転とハイブリッド運転とを比較するとその違いは明らかです。特に注目いただきたいのは背景の色。エアコン単独運転に比べて、ハイブリッド運転では床面・壁・その他の物体の温度を均一に温めています。エアコンの余熱を利用しているとは言え、輻射冷暖房としての機能を充分に果たしていることが分かります。
エアコンは微風運転、風をほとんど感じない
輻射冷暖房システムecowinHYBRIDは、動力となるエアコンに付随するリモコンを使って操作します。立ち上げの際はエアコンが持つ空気を調温する性能を活かし、室温をスピーディーに設定温度まで到達させます。同時に輻射熱の働きで床・壁・天井・家具などの物体を調温。すべての温度が均一になることで温度ムラのない快適な環境を実現します。室温が心地よい状態になった後は、エアコンを微風運転(静かモード)に切り替えます。これにより、風や運転音はほとんど感じない快適な空間が実現します。
エアコンはお好みで従来通りの使い方も可能
ecowinHYBRIDなら、輻射冷暖房システム単体では難しかった局所的な冷暖房も可能になります。エアコンを併設しているため、エアコンのリモコン操作ひとつで温度・風量・風向を自由にコントロールすることができます。暑がりの方、お風呂上りの方などでエアコンの風に直接当たりたいという場合は、従来のエアコン同様に任意の方向に強風運転をすることで解決できます。
まとめ
・熱エネルギー移動の形態は「対流」「伝導」「輻射」の3つ
・エアコンの底冷えの原因は「対流」によって生まれる温度ムラ
・「輻射」を活用した輻射冷暖房なら、室温をほぼ均一にできる
・ecowinHYBRIDは、エアコンと輻射冷暖房の良いとこどり
輻射冷暖房についてご質問がある方はお気軽にお問合せください。